Shuffleマークに馳せる思い
iPodユーザにはすっかりおなじみとなった"Shuffleマーク"。大量の音楽ライブラリから曲順に関係なくランダムに再生するという音楽の聴き方は、新しい楽しみ方として定着した感があります。
そんなShuffleモードをアイコン化しろと言われたとしても、きっと私には思いもつかなかったでしょうが(笑)、Appleではそれを"二つのベクトルが入れ替わる"という形で表現しました。
#原典がどこなのかは知りませんが…
このマークをじっと眺めていると、私は"あること"に思いが巡ります。勝手な妄想ですが少々おつき合いください。
二つのベクトルの一方は上を走り、もう一方は下を走っています。そしてある一点を境にその位置関係が入れ替わっています。
その図に、ある文字を書き加えてみました。
音楽携帯機器としての代名詞だった"Walkman"擁するSONYと、その新しいiconとなったiPodの"Apple"。ご存知の通り、両者の地位はここ数年で突然入れ替わってしまいました。
赤い線を引いた二つのベクトルが交差する"瞬間"、ここはiTunes、iPodと来て最後のピースが埋まった"iTunes Music Storeの開始"だと私は考えています。iPodの爆発的な普及における大きなターニングポイントでした。
ただ、今回私が触れたいのはその入れ替わりよりも前、上を行くSONYのベクトルが下降を始め、Appleのベクトルが上へ転じたタイミング。
私は、これを1999年10月3日に置きたいと思います。
この日。
SONY創業者であった盛田昭夫氏が都内の病院で永眠しました(享年78歳)。そのニュースがアメリカでトップで報じられたことからも、いかに傑出した日本人として世界に知られていたかが伺い知れます。
共同創業者であった井深氏(1997年死去)の無邪気な思いつきと、そこにビジネスの大きな可能性を見いだした盛田氏の手によって、Walkmanが誕生した話はあまりにも有名です。Walkmanは若者文化、音楽文化を大きく変えました。
参照:SONY Walkman誕生エピソード
その2日後。アメリカ カリフォルニア州のApple Special Eventの基調講演に立ったApple社CEO スティーブ・ジョブズは、登場に沸く聴衆を前に、静かにこう切り出します。
「まず私は、先日、亡くなられたSONYの盛田氏に心からの哀悼を表したい」
フロントスクリーンには故・盛田氏の写真が映し出され、ジョブズはその功績を心から称えると共に、当時Apple社が展開していた広告、"Think Different"(時代を変えた偉大な人々)の一人に列したと発表しました。
新iMacが衝撃のデビュー!FireWire搭載など3モデルに分化より
自社の発表に関するイベントで、冒頭の時間を費やしてまでその死を悼んだことからも、ジョブズがいかに盛田氏とその会社であるSONYを尊敬していたかが分かります。自らの発表に移る際にも「今日のプレゼンテーションではきっと盛田氏を喜ばせる事の出来る製品を紹介することができると思うよ。」と語ったと聞きます。
#当時の発表内容はMacOS9とiMac DVでした
ジョブズのSONYびいきについては他にもいくつかのエピソードが残っています。
「私たちはソニーを愛しています。いつも、ソニーのようになりたいと思っていました」(Macworld Conference & Expo/Tokyo 2001にて)(Mac Fan net)
米Apple Computerのスティーブ・ジョブズCEOがソニーの出井伸之会長に対し、AppleのiTunes Music Storeへの参加を持ちかけていた。(日経産業新聞2004/09/02記事)(IT media)
今年1月のMacWorld San Francisco 2005の基調講演で、SONYの安藤社長(当時)がステージに上がった時、ジョブズが嬉しそうに温かく見つめていたのが私は印象的です。
残念なことに、今のSONYに疑問を抱いている人は少なくありません。SONYの病巣が衝撃的なニュースとして噴き出したのが、2003/04のSONY株の大暴落(通称:ソニーショック)です。市場関係者ですら驚いたほどの減益決算。今では、SONYのエレクトロニクス部門での不振は市場も「織込み済み」となったほど。
ネットという媒体を通じて俯瞰してみると、SONY製品への不満・不信は決して少なくない現状が伝わってきます。若い世代になればなるほど、SONYというブランドに対する思い入れは…。
AppleがSONYを超えた理由はたった一つ。敵愾心でなく、常に尊敬の念で追い続けたからなのではないのでしょうか。ジョブズにとってのSONYは、「人々の生活を"より良い方へ"変える」という革新的な企業のままなのだと思います。
WalkmanもiPodも「自分だったら音楽を楽しむ機器としていかにあってほしいか」というのを真摯に形にしたもの。良いものを見極め、より新しく良いものを生む、両社の根底はそこにあるはずです。
SONYはそれを忘れています。
Walkmanの成功は、"モノ作り"の勝利ではないんです。
「楽しむ」というソリューションサービスに対する世界中からの支持なんです。
SONYに限らず、日本人はもう「モノ」という括りから卒業しないといけないのでしょうね。
AppleのiPodとて、いずれはShuffleの波に飲まれることでしょう。その時、その新しい担い手がiPodを超える理由は一つ。iPodよりも良いから、に他なりません。
それはいったい、どういうものになるのでしょうか。
それにしても、Macユーザは何のかんのと言ってSONYに思い入れが強いですよね(苦笑)。先日、Macコミュニティでは「Appleが次期Intel搭載ノート型パソコンの開発のためにSONYの技術者をスカウトしている」という噂が流れた時に、盛り上がっている人が少なくなかったんです。現状を考えれば、いくらなんでも逆に不安だと思うんですが…。
#Appleの品質も偉そうなことを言えませんけれどもね
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Comments
Shuffleモードのアイコンの考察、実に上手いです。脱帽です(^^)
ついでと言っちゃなんですが、私は音楽ソースを提供している業界も「Shuffle」しちゃってる様に思えてます(笑)
Posted by: Algernon | 2005.08.14 10:00 AM
こんにちは、アイコンの意味を考えるなんてスゴイですね。たしかにAppleとSONYの一部分はそんな感じですね。
自分は現在Appleフリークですが、それ以前は間違いなくSONYフリークでした。現在もSONY好きですが、携帯型音楽プレーヤーはApple製品を主に使用しています。パソコンもそうですが、、(^.^;)
SONYにはがんばって革新的な製品を創りだして欲しいです。
Posted by: Red Comet | 2005.08.14 10:30 AM
少々、妄想じみたエントリーにおつき合いいただき恐縮です。
>Algernon様
音楽業界のShuffleは間違いないですね(笑)。流通も含めた部分で大きな影響があるでしょう。個人的にはオリコンの社長の積極姿勢が意外(アンチ・レンタル業界なんですね)でした。こういう話も表に出るようになったんですね…。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NPC/NEWS/20050812/166342/
>Red Comet様
SONYに対する思い入れや叱咤って、もう"旧い世代の郷愁"扱いになってしまっていることを、ここ1、2年で思い知らされてしまいました(苦笑)。
私もSONYは好きでした。でも、あの頃のSONYは二度と帰ってこない気がしてなりません…。
Posted by: Solid Inspiration | 2005.08.14 02:32 PM
こんちはーホイヤーです。タイトルで寄せてもらいました。ははは・・この記事は なかなか ふかーい・・。なぜか マックユーザーには ソニーファンが多いですね。わたしもですけどね・・。 Appleとソニー・・いいときも 苦しいときも みてますから どちらも切磋琢磨でがんばれー・・・ですね。
Posted by: アンクル・ホイヤー | 2005.08.14 02:38 PM
私自身かつてSONYファンであった事は認めます^^
でも、今の製品でらしさって薄れていますね。確かに。
見た瞬間に「おーこれいい!」って思う製品をリリース出来なくなって、はや数年・・・
ジョブズ直前の迷走を続けていた頃のAppleとダブって見えてしまいますね。
今のSONY、自分たちが本当に欲しいと思える商品を作っているのか、それが疑問ですね。(それだけの自信さえも失ってきているようにも思えます^^;)
好きなメーカーで有りますし、頑張って欲しいものです。
Posted by: ★TAK | 2005.08.14 05:10 PM
>アンクル・ホイヤー様
トラックバックいただき恐縮です。
エントリーでは話の流れ上カットしたのですが、この10年のSONYの東証における株価推移です。
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=6758.t&d=c&k=c3&a=v&p=m130,m260,s&t=ay&l=off&z=m&q=c&h=on
一方、Appleの株価推移を5年で見守ったもの。
http://finance.yahoo.com/q/bc?s=AAPL&t=5y&l=on&z=m&q=l&c=
どちらも2000年頃に一度ヤマが来ているのですが、その後は文字通り"Shuffleマーク"なんです。
浮上するきっかけ、それが今のSONYにはなかなか見出せないのが現状なんですよね…。
>★TAK様
そういう意味では、ジョブズ復帰以降のAppleはSONYも参考になるかもしれません。ただ、何よりも"強力なカリスマ"が欠けてしまっているんですよね…。様々な部門をきちんと統率して方向性を示すことが一番重要だと思います。
Posted by: Solid Inspiration | 2005.08.14 07:23 PM
共感を持って読みました。
誰にでもスランプはあるものです。shuffleマークが今後逆転することもあるでしょうし、新たなベクトルが加わってくることもきっとあると思います。
そして私たちはわくわくさせてくれるメーカーに対して喝采を送ることでしょう。
Posted by: るき | 2005.08.14 10:56 PM
>るき様
今回は、携帯音楽機器になぞらえましたが、WindowsとMacの関係に置き換えればAppleの位置は逆転してしまうとも言えます。ある関係が逆転する瞬間と理由について、いろいろ調べていくと示唆に富んだものが見られるかもしれませんね。
次代のソリューションに感動させられる日を私も待ちたいと思います。
Posted by: Solid Inspiration | 2005.08.15 01:11 PM
こんにちは。
SONYの矢印が途中で切れている、というのも曰くありげですね。
会社というものは、前進をやめてはならないのでしょう。
Posted by: erole_erole | 2005.11.22 10:54 PM
>erole_erole様
コメントありがとうございます。
今から3ヶ月も前のエントリーですが、SONYの下降へのベクトルはとどまるところを知らないようですね…。
ご指摘いただいた切れていた部分で、「目を覚ます」ことになればよかったのかもと思います(苦笑)。
Posted by: Solid Inspiration | 2005.11.23 08:16 PM